アメリカ科学業界の人種問題対策、実況と雑感

人種問題に揺れ動くアメリカ。学術業界は、どう立ち向かう?

黒人人種差別の根絶に向けた米国アカデミアのストライキ(後編)

前回、アメリカのアカデミアで#ShutDownAcademia、#ShutDownSTEMという活動が6月10日に行われたというお話をしました。研究・教育機関の職員、学生、学術ファンディング機関の職員など、学術とSTEMに関わるすべての人に対して、仕事を一日休み、人種差別の解消に向けて自分が何をしていくかを考えようという活動でした。そうはいっても、いったい自分に何ができるのか、わからない人も多いと思います(私もその一人)。そんな人のために、#ShutDownAcademia、#ShutDownSTEMのウェブサイトには、行動計画の立て方についてのアドバイスが掲載されているので、抜粋してご紹介します。

https://www.shutdownstem.com/

 

計画は以下の3つを達成するように作ろう。

  1. 教育(Education)黒人差別の実態や対策を理解するために、さまざまなリソースから学ぼう。本やブログを読む、映画を見る、ポッドキャストを聞く、ソーシャルメディアで関連する人をフォローする。学びを続ける。
  2. 行動(Action)あなたが影響力を持つ場所では、責任をもって積極的に反人種主義(anti-racist)的に行動しよう。
  3. 回復(Healing)人種差別の被害にあった人たちは、精神的に傷ついている。傷から回復するための時間と場所の確保に努めよう。

 

計画を立てる際は、以下のポイントに注意しよう。

  1. 日々の活動を評価する。あなたは今日、今週、今月、今年、人種差別の撤廃に向けて何をしたのか?
  2. 何を習慣にするかを決める。簡単なものから始めて、徐々に拡大していく。
  3. 初めの目標を正確に決める。#ShutDownAcademia、#ShutDownSTEMのリソースページに、最初の一歩の例が紹介されている。
  4. 日々の活動と初めの目標との関係を意識する。
  5. 計画を達成するのにどんな情報が必要かを洗い出し、情報収集するためのスケジュールを立てる。
  6. 新しい情報に対する自分の感情をコントロールする方法を確立する。日記を書いたり、親しい友人と話をしたり。
  7. 新しく得た知識を多くの人に話す前に、自分の感情が制御できているかを確認する。思いやりの心をもって話すことが難しいと感じるなら、まだ話す準備ができていないということ。
  8. もしあなたがこの問題にグループで取り組んでいるなら、計画の中に多様な人々の意見が反映されているか確認しよう。もしグループの中に黒人が含まれていないなら、グループの外の人からフィードバックを受けよう。なお、黒人の知り合いに協力してもらいたいなら、まず初めに彼・彼女にあなたのことを信頼してもらい、いい関係性を築く必要がある。
  9. もしあなたの計画が、学生の数を増やすという目標を含むなら、#ShutDownAcademia、#ShutDownSTEMのリソースページにある読書教材や、the Particles For Justice(物理学者たちによるアカデミアにおける黒人差別抗議運動のひとつ)からの手紙(https://www.particlesforjustice.org/letter)を読もう。
  10. 読む・聞く、熟考して処理する(知識と感情の両方において)、個人としての活動、集団としての活動、の4つのうちの複数を計画に含めよう。

 

また、立場ごとに、何ができるかの具体例も紹介されていますので、いくつか紹介します。

研究者

  • リソースから情報を得て、大事な点をまとめ、知り合いの人たちと共有しよう。
  • あなたの研究を出版するジャーナルが、黒人差別の解消に向けどのような対策を講じているかをチェックし、科学出版がより公平になるような変化を求めていることを伝えよう。

研究グループのリーダー

  • グループのミーティングで、人種主義(racism)・黒人差別に関連する記事を議論しよう。
  • 入試や雇用において、黒人差別がどのくらい広範にみられるか、黒人差別があなたのグループにどんな影響を与えている可能性があるかを検討しよう。
  • グループの個々人に、構造的人種主義への対策について学びミーティングで発表してもらおう。
  • あなた自身が多様性を受け入れ、反人種主義的態度でグループメンバーに接していることを確認しよう。

 学生

  • 同僚と公平性に関連したジャーナルクラブを定期的に開催しよう。
  • 学部・部署のイベントで、人種主義や黒人差別に対する会話をしよう。
  • 教授に連絡し、社会的に弱い立場の学生をどうサポートするか、シラバスに書いてほしいと伝える。

ファンディング機関の職員

  • 研究助成を受けている研究者の人種構成について検討しよう。
  • 研究助成の採択基準を検討し、黒人に対して不利になっていないか確認しよう。
  • 研究助成の採択に関わる委員の人種構成を確認しよう。
  • 外部評価委員のメンバー構成が適切か検討しよう。

 

リソースのページには、人種差別一般や、アカデミアにおける人種差別に関する本やポッドキャストのリストが公開されています。

https://www.shutdownstem.com/resources

 

以上、#ShutDownAcademia、#ShutDownSTEMが提言する活動計画の立て方についてご紹介しました。私自身、今回の運動をきっかけに黒人差別に関する資料を読み始め、問題の根の深さを実感してきました。機会があれば、米国アカデミアにおける不公平性の現状について調べた内容をご紹介したいと思います。また、今回紹介した提言は黒人差別に対するものですが、男女共同参画など、日本のアカデミアにおける公平性を考えるうえでも参考になるかもしれません。