アメリカ科学業界の人種問題対策、実況と雑感

人種問題に揺れ動くアメリカ。学術業界は、どう立ち向かう?

理系教育から去りゆく人種的・民族的マイノリティ(後編)

前回のつづきです。


STEM教育をより受容的な環境にして、PEERs(黒人・ヒスパニック系・先住民) が理系教育から去るのを防ぐために、著者は3つの提案をします。以下、要約です。


一つ目は、PEERが理系教育から去るのは学力が足りないから、という考えを疑うことです。アメリカの大学入試は、SAT(アメリカ版センター試験のようなもの)のスコアだけでなく、高校の成績や課外活動、人種バランスなど、複数の要因を考慮して行われるので、同じ大学に入学する学生の間でもSATスコアはばらつきます。また、SATスコアは親の収入や学歴に相関するため、PEERの学生は白人やアジア系の学生に比べてSATスコアが低いかもしれません。しかし、SATのような統一テストのスコアが、その人の将来の成功を正確に予測できるわけではありません。だから、PEERの学生は学力不足だから理系教育を去るのは仕方ないという考え方を改めるべきです。


二つ目の提案は、「違い」について話す方法を身につけることです。ほとんどの教員・学生は、人種問題、偏見、差別についてどうやって話したらいいか、よくわかっていません。この問題を解消するために、HHMIではチームを組んで、関連する文献や動画を議論したり、外部からスピーカーを読んで話を聞いたり、専門家によって企画されたワークショップを行うことで、対話を増やしてきました。アメリカには、人種問題や差別に関する対話をサポートするNPOが多数あり、ワークショップを支援してくれます。また、HHMIによる多様性を推進するための大学院生向けフェローシップHHMI Gilliam graduate fellowships
program)では、大学院生を指導する教員に、文化の異なる学生への指導に関するトレーニングを受けるよう推奨しています。

三つ目は、科学教育のやり方を受容的なものに変えることです。STEMを志望していながらもSTEM専攻で卒業しない学生の大部分は、大学教育の初期で脱落していくことがわかっています。この状況を変えるためには、暗記型の教育から、思考型の教育に変えた方がいいでしょう。また、教員に需要的な指導法を学習する機会を与えるべきです。声のトーンや、相手の話を聞く姿勢といった小さなことが、特にPEERのサポートになるという研究結果もあります。さらに、需要的な教育を達成できたかどうかを、教員の昇進やテニュア終身雇用権)の審査に組み込むことも重要です。

以上、科学雑誌セルに掲載されていた人種問題に関する記事の紹介でした。記事を読んで、大学や研究所が他の専門的組織(NPOに依頼して、人種問題や受容的環境づくりに取り組んでいるのが興味深かったです。それぞれの大学でできることには限りがあるので、外部の助けを借りて、短時間で効果的に状況を変えていく。今後はこういった柔軟さが、日本のアカデミアでも重要になってくるのではと感じました。